ドイツワインコラム No.7

ドイツワインの歴史は、紀元前にまで遡ることができます。そして3世紀には銘醸地であるモーゼルを中心に、ドイツワインは早くも全盛期を迎えていました。

そんな長い歴史を誇るドイツワインは、1960~70年代の高度経済成長期には甘口のワイン産地として名を馳せます。

しかし1985年、オーストリアに端を発した「ジエチレングリコール混入事件」により、甘口ワインは世界的に不信感を持たれます。自動車の不凍液(ジエチレングリコール)を入れると高級ワインに似たコクや甘みが出ると、一部の生産者が使用したことが発覚したのです。

それ以降、ドイツワインの生産者は、どのようなワイン造りをすればいいのかと葛藤します。そこに台頭したのが、親たちの世代とは違うワイン造りをしようと考える若手醸造家たちでした。

若手醸造家は、大量生産の甘口ワインを造ってきた親たちのやり方を見直し、クオリティ重視の辛口ワインに活路を見出そうとします。そうして、ワインの名産地としての誇りや評価を取り戻そうとしたのです。

2000年代になると、「すごいワインを造ろう」という意識を共有する若者たちがグループをつくり、情報を交換し、切磋琢磨するようになりました。

たとえば、ドイツ最大のワイン産地ラインヘッセンでは、20代後半の若い生産者が中心となり、「メッセージ・イン・ア・ボトル」という団体を2001年に結成しました。

グループ名はあのイギリスのロックバンド、ザ・ポリスの曲名から取られたもので、「ボトルのなかにメッセージがある」という意味です。

それはワインの味わいに土壌や気候、そして自分たちの哲学や思想が内包されている、との高らかな表明でもありました。

また2009年には35歳以下の醸造家たちにより組織された「ジェネレーション・リースリング」も発足します。こういった一連の動きにより、「ドイツは若手生産者が活躍するワイン産地」というイメージも定着していきました。

そんな若手の生産者たちの多くはフランスやアメリカ、ニュージーランドなど海外のワイン産地で修業し、広い視野とともにワイン造りをしているのも特徴です。現在、ドイツではフランス系ぶどう品種であるピノ・グリやピノ・ブラン、ピノ・ノワールなどの栽培が増えていますが、それも彼らが新しい挑戦をし続けているからです。

新世代の生産者のワインはマスコミやソムリエに注目されて、スター生産者も続々と生まれています。近年、より多様に、より質も向上したドイツワインの理由のひとつはここにもあるのです。

(文:鳥海美奈子)


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